はじめに:なぜ理念が伝わらないのか
「社員に何度も伝えているのに、なぜ伝わらないのだろう」
中小企業の経営者の方から、このような悩みを聞くことが少なくありません。経営者自身は明確なビジョンを持ち、組織の方向性についても一貫した考えを持っているつもりです。しかし、実際に現場を見てみると、社員一人ひとりの行動がバラバラで、組織としての一体感が感じられない。
この問題の本質は、「経営者の思いと社員の解釈にズレが生じている」という点にあります。
私たちem株式会社は、この解釈のズレこそが、かつて私自身の組織運営を危機に陥れた根源的な問題であったと認識しています。社員が全員辞めてしまうという痛切な経験を通じて学んだことは、理念を単なる言葉で終わらせず、組織の確固たる「軸」として定着させることの重要性でした。
本記事では、いかにして「共感力」を活用し、理念の可視化と習慣化を実現することで、社員間の解釈のズレを解消し、組織全体の一体感を創出するかについて、実体験に基づいた具体的な方法をお伝えします。
第1章:理念なき組織が崩壊した実体験
1-1. なんでも屋からの出発
私が事業を始めた当初、理念もビジョンも、具体的な事業計画もありませんでした。友人と共に「なんでも屋」としてスタートし、その後、事業の方向性を電気工事業に変更しました。やがて社員を抱える会社へと成長し、多い時で2人の社員を雇用するまでになりました。
事業自体は順調に見えました。仕事は取れていましたし、売上も立っていました。しかし、組織が少しずつ大きくなるにつれて、深刻な問題が表面化してきたのです。
1-2. 人の管理がうまくいかない
最初に直面したのは、「人の管理や教育が思うようにいかない」という壁でした。
経営者である私の中では、一貫した方針を持っていたつもりです。どのように仕事を進めるべきか、どのようなサービスを提供すべきか、頭の中では明確なイメージがありました。
しかし、それが社員には正確に伝わっていなかったのです。
ある社員は私の意図とは異なる方法で仕事を進め、別の社員はまた別の解釈で動いていました。同じ指示を出しているはずなのに、社員によって受け取り方が違っていたのです。
1-3. 組織崩壊という結末
この「解釈のズレ」は、やがて組織運営に致命的な影響をもたらしました。
経営の方針に対する共通理解がなければ、個々の社員の行動はバラバラになります。組織内部に不協和音が生じ、チームワークも発揮されません。社員同士のコミュニケーションもうまくいかず、職場の雰囲気も悪化していきました。
そして最終的に、社員が全員辞めてしまうという極めて厳しい状況に陥ったのです。
この経験は、私にとって大きな衝撃でした。同時に、重要な教訓を与えてくれました。それは、「組織を長く存続させるためには、理念・目的・ビジョンが不可欠である」ということです。
これらが不在の状態、あるいは共有されていない状態では、組織は非常に脆弱になります。解釈のズレを放置することは、組織の崩壊リスクに直結する本質的な課題なのです。
1-4. 理念づくりからの再出発
この危機を乗り越えるため、私が最初に取り組んだのが「自社の理念づくり」でした。
経営者として、自分は何を大切にしたいのか。どのような組織を作りたいのか。社員にどのような働き方をしてほしいのか。これらを言語化し、明文化することで、経営の軸をつくることにしたのです。
この経験があるからこそ、私たちは今、「思いはあるが上手く形にできていない」中小企業の経営者の皆様をサポートしています。特に、組織を拡大・拡充したい30名以下の会社の経営者に対して、理念の可視化から習慣化までを支援しています。
第2章:共感力が解釈のズレを解消する
2-1. 理念を「共有」するとはどういうことか
理念を明文化しただけでは、解釈のズレは解消されません。
たとえば、「お客様第一主義」という理念を掲げたとします。しかし、この言葉だけでは、社員一人ひとりの解釈はバラバラになってしまいます。ある社員は「お客様の言うことは全て聞く」と解釈し、別の社員は「お客様の本質的な課題を解決する」と解釈するかもしれません。
理念が持つ熱量や、背景にある「思い」を社員が心から理解し、自分ごととして受け入れるためのプロセスが必要なのです。ここで、私たちが最も重視しているのが「共感力」です。
2-2. 共感力とは何か
私たちが定義する共感力とは、「経営者の思いに寄り添い、従業員との架け橋となることで組織全体の一体感を創出する力」です。
具体的には、以下のような役割を果たします。
まず、感情的なズレの解消です。経営者が抱く事業への情熱や、理念が生まれた背景にあるストーリーを、従業員が感情的なレベルで理解できるよう伝達します。
たとえば、私の場合であれば、「社員が全員辞めてしまった」という過去の失敗経験が、今の理念の原点にあります。この経験を共有することで、なぜ理念の共有が重要なのか、従業員は単なる業務目標ではなく、「なぜ私たちはここにいるのか」という目的として理解できるようになります。
次に、認識の統一です。共感を通じて、理念に対する共通の認識が築かれます。かつて私自身の組織で生じたような、「自分では一貫した方針を持っていたつもりでも、社員によって解釈が違っていたりする」状態を解消できるのです。
そして、チームワークの土台づくりです。共感力によって組織全体の一体感が創出されることで、社員は相互の立場や役割を理解しやすくなります。これにより、チーム全体で目標達成を目指す基盤が築かれます。
2-3. 共感を生み出すための具体的な方法
では、具体的にどのように共感を生み出すのでしょうか。
一つ目は、経営者自身のストーリーを語ることです。理念が生まれた背景、過去の失敗や成功体験、そこから学んだことを率直に伝えます。完璧な経営者像を演じるのではなく、一人の人間として、自分の弱さや葛藤も含めて語ることが大切です。
二つ目は、双方向の対話を重視することです。一方的に理念を押し付けるのではなく、社員がどのように受け止めているか、どんな疑問を持っているかを丁寧に聞き取ります。そして、その疑問に対して共感的に応答することで、理解を深めていきます。
三つ目は、具体的なエピソードを共有することです。抽象的な理念の話だけでなく、「この理念に基づいて、過去にこんな判断をした」「この理念があったから、こんな困難を乗り越えられた」といった具体例を示すことで、理念が実際の行動にどう結びつくのかをイメージしやすくなります。
2-4. 誠実性との連携
共感力を効果的に発揮するためには、信頼関係が不可欠です。
私たちは、「常に正直で透明性のある関係を構築し、長期的な信頼関係を育む」という誠実性を、共感力の土台としています。
誠実性に基づく対話があって初めて、従業員は安心して自分の解釈や疑問を表明することができます。そして、それに対して共感力をもって丁寧に説明することで、認識のズレが解消されていくのです。
たとえば、社員が「この理念、正直よくわからないんです」と言ってきたとします。この時、「何を言っているんだ」と怒るのではなく、「正直に言ってくれてありがとう。どの部分がわかりにくいか、教えてもらえますか」と受け止める姿勢が重要です。
第3章:理念を日々の行動に落とし込む
3-1. 習慣化の重要性
共感力によって組織全体で理念が共有され、解釈のズレが解消されたら、次はその理念を日々の行動に落とし込み、「習慣化」させるプロセスに移ります。
理念の習慣化とは、理念が形骸化するのを防ぎ、組織文化として定着させることです。どんなに素晴らしい理念も、日々の行動に反映されなければ意味がありません。
3-2. 抽象的な思いを具体的な形にする
理念の習慣化を設計するためには、抽象的な理念を具体的な行動計画に変える「創造力」が必要です。
たとえば、「お客様第一主義」という理念があるとします。これを習慣化するためには、以下のような具体的な仕組みが必要です。
まず、判断基準の明確化です。「お客様第一主義に基づく判断」とは具体的にどのような判断なのか、事例を交えて明文化します。「納期が厳しい時、品質を落としてでも納期を優先するのか、納期を遅らせても品質を優先するのか」といった具体的な場面での判断基準を示すのです。
次に、評価制度への組み込みです。理念に基づいた行動を評価する仕組みを作ります。お客様第一主義を体現する行動をした社員を表彰したり、評価に反映したりすることで、理念に基づく行動が推奨されるようにします。
そして、日々の業務への統合です。朝礼で理念を唱和するだけでなく、日々の業務の中で理念を意識する機会を設けます。たとえば、週次ミーティングで「今週、理念に基づいて行動できた事例」を共有し合うなどです。
3-3. 継続的な改善のサイクル
習慣化の過程で、理念の浸透を妨げる新たな課題や、まだ解消されていない解釈のズレが生じる可能性があります。
私たちは、「表面的な課題に留まらず本質的な問題の解決に取り組む」という探究心をもって、習慣化の仕組みを継続的に改善し続けることが重要だと考えています。
たとえば、理念を唱和する仕組みを導入したものの、社員が形式的に唱和しているだけで、実際の行動には反映されていないという問題が起こることがあります。この時、「唱和が悪いのではなく、唱和の方法や頻度に問題があるのか」「そもそも理念の内容が現場の実態と合っていないのか」といった本質的な問題を探究する必要があります。
3-4. 既存の枠組みにとらわれない
理念の習慣化は、既存のやり方に固執していては実現できません。
「うちの会社では昔からこうやってきた」という慣習が、実は理念の浸透を妨げている可能性もあります。既存の枠組みにとらわれず、新しい経営モデルの構築に挑戦する革新性が必要です。
たとえば、従来は経営者が一方的に方針を伝える会議形式だったものを、社員が主体的に理念について語り合うワークショップ形式に変えてみる。こうした革新的なアプローチによって、理念に基づく行動が組織の成長に不可欠な要素として定着していきます。
第4章:共感力と習慣化がもたらす組織の変化
4-1. 組織の強靭化
社員間の解釈のズレを解消し、理念を習慣化させることで、組織は強靭さを獲得します。
理念という明確な羅針盤が共有されることで、かつて私が経験したような組織の脆弱性、すなわち社員の大量離職や組織内部の不協和音を克服できるようになります。
社員は、自分の役割が組織の大きなビジョンにどのように貢献しているかを理解できるようになります。「今日やっている仕事が、どこにつながっているのか」が見えるようになることで、働くことへのやりがいも高まります。
4-2. 自律的な判断ができる組織へ
理念が習慣化された組織では、社員が自律的に判断できるようになります。
たとえば、現場で突発的な問題が起きた時、いちいち経営者に確認を取らなくても、社員自身が理念に基づいて適切な判断を下せるようになります。これは、経営者にとっても大きなメリットです。
すべての判断を経営者が行っていたのでは、組織は大きくなりません。社員一人ひとりが理念という共通の軸を持ち、その軸に基づいて自律的に動けるようになることで、組織は初めてスケールできるようになるのです。
4-3. 顧客への価値提供の質が向上する
社員間の解釈のズレが解消され、組織全体が同じ方向を向いて動けるようになると、顧客への価値提供の質も向上します。
営業担当者が約束したサービス内容と、実際に現場が提供するサービス内容にズレがある。こうした問題は、理念の共有不足から生じることが多いのです。
理念が習慣化された組織では、営業も現場も、同じ理念に基づいて動いているため、顧客に対して一貫性のある価値を提供できるようになります。これは、顧客からの信頼獲得にもつながります。
4-4. 採用における効果
理念が明確で、それが組織文化として定着している会社は、採用においても有利になります。
求職者は、給与や勤務条件だけでなく、「どんな会社で働きたいか」「どんな価値観の会社で働きたいか」を重視するようになっています。特に、若い世代ほどこの傾向が強くなっています。
理念が明確に言語化され、それが実際の組織文化として根付いている会社は、求職者にとって魅力的に映ります。また、入社前に理念を共有することで、価値観のミスマッチを防ぐこともできます。
結果として、採用のミスマッチが減り、長く働いてくれる社員が増えることにつながります。
おわりに:共感力は理念を組織の血液にする
社員の解釈のズレを解消し、目標達成を確実にするためには、「共感力」と「理念の習慣化」の連携が不可欠です。
理念の可視化は、経営者の「思い」を明確な「軸」とします。しかし、その軸が組織全体に浸透し、社員一人ひとりの判断の基準となるためには、共感力でつなげることが必要です。
共感力は、理念に魂を吹き込み、社員がそれを心から受け入れるための感情的な架け橋として機能します。この共感を通じて確立された共通理解は、創造力とチームワークによって具体的な仕組み、すなわち習慣へと変換され、組織の文化として定着していきます。
理念の習慣化は、組織に一本の太い血管を通すことに似ています。理念の可視化と創造力は血管の設計図ですが、共感力は、その血管に経営者の熱い思いを乗せた血液を流し、組織の隅々、つまり社員一人ひとりまで行き渡らせるポンプの役割を果たします。
血液が行き渡って初めて、組織全体が健全に機能し、活力を保つことができるのです。
かつて理念の不在と解釈のズレによって組織が崩壊したという経験を持つ私たちだからこそ、共感力を駆使することで、組織を脆弱性から守り、働く人々のやりがいに満ちた、持続可能な未来を経営者の皆様と共に創造していくことができると確信しています。
もし、あなたの組織で社員との間に解釈のズレを感じているならば、それは決してあなただけの問題ではありません。多くの経営者が直面する課題です。しかし、この課題は、共感力と理念の習慣化によって必ず乗り越えることができます。
私たちem株式会社は、あなたの組織の理念を可視化し、習慣化し、社員と共有するためのパートナーとして、全力でサポートいたします。
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em株式会社(イーエムカブシキガイシャ)
代表取締役 郷司 光
経営理念:そうぞうの力で未来を描く
Purpose:中小企業の魅力を引き出し国力を上げる
Vision:革新的な日本型経営モデルの確立
Mission:思いを形にし理想の企業文化を創造
所在地:〒486-0817 愛知県春日井市東野町3丁目29番地7
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お問い合わせ:https://em-company.jp
事業内容:
DX化・WEB集客サポート
企業理念浸透支援
理念策定フレームワーク作成支援
理念経営実行ツール作成・導入支援
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