経営者が「思い」を形にできない理由:具現化の3つの壁と克服戦略

はじめに:熱意と現実のギャップを埋める

多くの中小企業経営者は、事業に対する強い「思い」を持っています。創業初期の厳しい局面を乗り越えるのは、この揺るぎない信念と熱意があってこそです。

しかし事業が成長し、組織の規模が30名を超えるようになると、ある困難に直面します。それが「思いはあるが、うまく形にできていない」という状態です。

経営者が持つ信念は心の中では一貫していても、それが適切に言語化されていなければ、社員に伝わりません。さらに社員によって解釈が異なり、ある者は一方の方向へ、別の者は別の方向へ進んでしまう—こうした「解釈のズレ」が、組織全体を脆弱にしてしまうのです。

このような経営者の課題を、具体的かつ実践的に解決するために、本記事では抽象的な信念を具現化する方法を、3つの壁と克服戦略としてご紹介します。

抽象的な信念が組織に与える影響

「思い」が共有されないとどうなるのか

経営者の頭の中では明確な方向性があるのに、それが社員に伝わらないというシチュエーションは、実は多くの企業で起こっています。

例えば、ある製造業の経営者が「顧客満足度を最優先にする」という信念を持っていたとします。営業チームはこれを「価格を下げてでも受注を取る」と解釈し、製造チームは「完璧な品質を作ることが顧客満足だ」と解釈してしまう。その結果、採算性が悪化し、納期が伸びるという悪循環に陥ります。

これが「解釈のノイズ」です。経営者が一貫した方針を持っていても、それが暗黙知(心の中にはあるが言葉にされていない知識)のままでは、社員は推測するしかありません。

組織が脆弱になるメカニズム

このような状態が続くと、以下の3つの問題が連鎖的に発生します。

まず第一に、行動の一貫性が失われます。営業と製造が異なる方向を向いているため、組織の行動にブレが生じます。営業の判断が製造の判断と矛盾し、結果として顧客対応も一定ではなくなります。

第二に、経営が不安定になります。行動のブレが続くと、経営成績の波が大きくなります。良い時と悪い時の差が激しくなり、中期的な経営計画が立てられません。

そして第三に、社員のやりがいが失われます。自分が何のために働いているのかが不明確になると、社員は会社への信頼を失い、離職率が高まります。最悪の場合、組織全体の崩壊につながります。

これらの問題は、単なる運営上の困難ではなく、企業の生存そのものを脅かす重大な経営リスクなのです。

第1の壁:言語化の壁を乗り越える

経営者の信念はなぜ言葉にならないのか

経営者の信念が言語化されない理由は、その信念があまりにも深く、根源的だからです。多くの経営者は、無意識のうちに「当たり前」として行動している価値観があります。

「顧客に誠実に向き合う」「社員を大切にする」「品質を妥協しない」—こうした想いは、経営者の人生経験の中に深く根ざしており、改めて言葉にしようとすると、どの表現が適切かが分かりにくくなってしまうのです。

さらに問題なのは、表面的な課題に気を取られ、その信念が組織にもたらす本質的な問題を掘り下げていない経営者が多いということです。売上が落ちた、人が辞めたといった表面的な問題ばかりに目を奪われ、その根本原因である「理念や目的の欠如」に気づかないままになっているのです。

探究心で本質を掘り下げる重要性

言語化の壁を乗り越えるには、探究心を持って本質に迫る必要があります。これは経営者が一人で行うのは難しく、外部の専門家と対話する中で初めて可能になることが多いです。

具体的には、以下のようなプロセスが有効です。

経営者に「なぜその仕事をしているのか」を繰り返し問いかけます。一回目の答えは表面的であることが多いです。「売上を作るため」「市場を開拓するため」といった一般的な答えが返ってきます。

しかし、そこからさらに「なぜそれが重要だと思うのか」と問い続けます。すると、経営者の人生経験や価値観が徐々に浮かび上がってきます。「親が事業で失敗したから、安定した事業を作りたい」「前の職場で社員が大切にされていなかったから、違う会社を作りたい」といった、より本質的な想いが見えてくるのです。

こうした本質的な想いが明確になれば、それを理念や目的として言語化することが可能になります。それが「理念・目的・ビジョン」という、組織全体を牽引する「経営の軸」となるのです。

言語化がもたらす変化

理念が明文化されると、組織内での「解釈のズレ」が大幅に減少します。全ての社員が同じ言葉で同じ価値観を共有できるようになり、意思決定の基準が統一されます。

営業が新規営業を検討する際、製造が製法を検討する際、それぞれが「我々の理念に照らし合わせると、どちらが正しいのか」と判断できるようになります。その結果、組織全体が同じ方向を向いて動くようになるのです。

第2の壁:想像力の壁を乗り越える

現状の制約に囚われると何が起きるか

多くの経営者は、現状の厳しい制約の中で判断する癖がついています。「うちの会社には資金がない」「人材が不足している」「市場が小さい」—こうした制約は確かに存在しますが、これに囚われすぎると、ビジョン構築ができなくなります。

ビジョンとは、将来の企業の姿を鮮明に描いたものです。それは現状の延長線上にあるものではなく、経営者が「こうなりたい」と望む理想の未来です。ところが、現状の制約ばかりに目を向けていると「今できることしか想像できない」という状態に陥ります。

例えば、地方の小さな製造業の経営者が「資金がないから新製品開発はできない」と考えてしまうと、ずっと既存製品の改良だけに留まります。ビジョンが「いつか新製品で市場を開拓する」ではなく「現在の製品の改良を続ける」になってしまい、成長の可能性が大きく制限されるのです。

想像力を膨らませるプロセス

想像力の壁を乗り越えるには、一度、現状の制約から意識的に離れる必要があります。

例えば、経営者と支援者が一緒に以下の問いを立てて考えるのは有効です。

「あなたの理念が実現した、5年後の企業の姿はどのようになっていますか」「その時、社員は何を感じていますか」「顧客からはどのように評価されていますか」

こうした問いに対して、制約を気にせず、理想的な姿を描き出すのです。多くの経営者は、ここで初めて「本当にやりたかったこと」に気づきます。

資金制約や人材不足はもちろん課題ですが、それは「ビジョンが決まった後で、どう乗り越えるか」という段階の問題です。ビジョン策定の段階では、むしろ「制約を気にせず、本当の理想を描く」ことが重要なのです。

ビジョンが生み出す組織の潜在力

明確なビジョンが存在すると、組織には大きな変化が起きます。

まず、社員のモチベーションが変わります。「毎日淡々と仕事をする」から「ビジョン実現に向かって働く」という意識へと転換します。すると、社員の創意工夫が生まれます。「このビジョンを実現するには、どうすればいいのか」と、各自が考え始めるようになるのです。

また、組織の外部からの見え方も変わります。清潔感のない企業よりも、明確なビジョンを持つ企業に対して、優秀な人材は集まりやすいです。顧客も、ビジョンを持つ企業とのつながりを価値を感じるようになります。

こうして、ビジョンを通じて、組織の潜在的な価値が最大限に引き出されるようになるのです。

第3の壁:実行の壁を乗り越える

理念が「スローガン」に終わってしまう理由

理念とビジョンが言語化され、組織内で共有されたとしても、それが具体的な行動に落とし込まれなければ、単なる「スローガン」に終わってしまいます。

壁に貼られた企業理念を見ながら、日々の業務は全く別のことをしている—こうした光景は、残念ながら多くの企業で見られます。

理由は、理念を具体的な業務や行動規範、企業文化に変換する「創造力」が不足しているからです。理念が立派であればあるほど、それを実装する難易度は高くなります。「顧客第一主義」という理念を、営業、企画、製造、事務といった各部門で、具体的にどう実行するのかを設計する必要があります。

理念を行動規範に変える具体的な方法

理念を実装するには、以下のようなプロセスが有効です。

第一段階は、理念の具体化です。理念を各部門が理解できる具体的な行動に翻訳します。例えば「顧客第一主義」という理念があれば、営業部門では「顧客の潜在ニーズを聞き出す」が具体的行動になり、製造部門では「品質基準を妥協しない」が具体的行動になります。

第二段階は、ルール化と仕組み化です。具体的行動が「気づいた人がやる」という曖昧な状態では、実行性が低いです。そこで、これを業務フロー、評価基準、報酬体系に組み込みます。すると、全員が同じ行動をとることが自然になります。

第三段階は、文化化です。最初はルールに従って行動していた社員も、時間が経つと、その行動が「当たり前」になります。ここが真の文化の定着です。新入社員も、先輩の行動を見て自然と同じ行動をするようになります。

このプロセスを通じて、理念は「組織全体を動かす力」として機能し始めるのです。

実行支援の重要性

理念を実装する過程では、多くの困難が生じます。「ルール化すると、現場が反発するのではないか」「売上が落ちないか」といった不安が経営者に生じます。

こうした困難を乗り越えるために、外部の専門家による継続的な支援が有効です。理念実装の専門家は、同様の課題を何度も経験しており、その克服方法を知っています。

また、実装過程で生じた問題に対して、一緒に対策を考え、試行錯誤する伴走者の存在は、経営者の心理的な支えにもなります。

理念を組織全体に浸透させるための共創戦略

経営者と社員の間に信頼を築く

理念の実装には、経営者と社員の間に強固な信頼関係が必要です。なぜなら、理念の実装は、既存のやり方を変えることを意味するからです。

社員は、新しいルールに従う際に「本当にこれで大丈夫なのか」と心配になります。この不安を払拭するには、経営者が「この理念は会社の本質であり、絶対に変わらない」という強いメッセージを、言葉だけでなく行動で示す必要があります。

具体的には、経営者自身が理念に基づいた判断をする姿勢を、常に示し続けることです。利益よりも理念を優先する判断をすることもあるでしょう。そうした判断を社員が見ると、「この経営者は本気だ」という信頼が生まれます。

経営者の思いを社員が納得できる言葉に翻訳する

経営者と社員の間には、どうしても思考様式や経験の差がある場合があります。経営者が使う言葉が、社員にとっては理解しづらいこともあります。

例えば、経営者が「グローバル展開」と言う時、社員は「忙しくなるだけで給料は変わらないのではないか」と心配するかもしれません。

こうした「思いのズレ」を解消するには、経営者の思いを、社員が納得できる言葉に翻訳することが重要です。「グローバル展開」ではなく「5年後には、海外の顧客にも我々の製品が使われるようになる。そのために、一緒に努力しよう」と言い換えるのです。

こうして、経営者と社員が共通の言葉で理念を共有することができるようになります。

学習と改善のサイクルを回す

理念の実装は、最初から完璧にいくものではありません。試行錯誤の連続です。

重要なのは、上手くいかないことに気づいた時に「これはダメだ」と諦めるのではなく、「どうすれば上手くいくのか」と考え、改善を続けることです。

この学習と改善のサイクルを回すプロセスを、組織全体で共有することが大切です。社員もそのプロセスに参加し、「ここはどうすればいいのか」と考える習慣がつくと、組織全体の創意工夫が活性化します。

そうなると、経営者が思いついた理念が、社員との対話の中でさらに良いものに進化していきます。これが「共創」のプロセスです。

理念の具現化がもたらす組織の変化

安定した経営基盤ができる

理念が具現化されると、組織の意思決定が安定します。新しい事業機会が来た時「この事業は我々の理念に合致しているのか」という基準で判断できるようになります。

曖昧な判断や、経営者の気分での判断がなくなり、組織全体が一貫した方針で動くようになります。その結果、経営成績も安定するようになります。

社員の定着率が高まる

自分の仕事が会社の理念にどう貢献しているかが明確になると、社員のやりがいが大きく変わります。

単なる「給料をもらうための仕事」から「理念を実現するための仕事」へと意識が転換します。すると、離職を考える社員が減り、定着率が高まります。

また、会社の理念に共感した優秀な人材が集まりやすくなることも、組織の質を高めます。

革新的な挑戦が可能になる

理念という「軸」があると、新しいことへの挑戦がしやすくなります。経営者が一人で判断するのではなく、「理念に基づいているか」という基準があるため、組織全体で判断できるようになるからです。

その結果、従来の枠組みにとらわれない、新しいビジネスモデルへの挑戦も生まれます。これが企業の成長を大きく加速させるのです。

おわりに

経営者が持つ抽象的な信念を、組織全体が共有できる理念へと具現化することは、企業の成長を実現するための最も重要なステップです。

言語化の壁、想像力の壁、実行の壁という3つの困難を乗り越えることで、初めて理念は組織を動かす力を持つようになります。

特に組織が30名前後に成長していく段階では、このプロセスが最も重要になります。経営者一人の力だけでは限界があり、組織全体が同じ方向を向く必要があるからです。

当社は、このような企業の経営者の皆様に対して、理念構築から実装までの全過程をサポートしています。抽象的な思いを具体的な形に変え、それを組織全体に浸透させる—このプロセスを一緒に進むことで、貴社の持つ潜在的な価値を最大限に引き出すお手伝いをしています。

「思いはあるが、うまく形にできていない」とお悩みの経営者の皆様は、ぜひ一度、当社にご相談ください。貴社の理念を具現化するための第一歩を、一緒に踏み出しましょう。


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em株式会社(イーエムカブシキガイシャ)
代表取締役 郷司 光

経営理念:そうぞうの力で未来を描く
Purpose:中小企業の魅力を引き出し国力を上げる
Vision:革新的な日本型経営モデルの確立
Mission:思いを形にし理想の企業文化を創造

所在地:〒486-0817 愛知県春日井市東野町3丁目29番地7

Webサイト:https://em.80462.co.jp
お問い合わせ:https://em-company.jp

事業内容:

DX化・WEB集客サポート
企業理念浸透支援
理念策定フレームワーク作成支援
理念経営実行ツール作成・導入支援

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